chike0905の日記

何者かになりたい

奨学金獲得戦線

筆者は学部生時代から足掛け9年間(学部4年 + 修士2年 + 博士3年)奨学金をさまざまな工夫を凝らしながら獲得し、学費を工面してきた。本年度で学生生活が終わるにあたり、本稿では、奨学金を獲得するためのTipsおよび考え方を示す。

Note: 本稿は筆者の主観であり、本稿に沿って奨学金を獲得できることを保証するものでもない。また、制度、システムに関しては筆者が在籍した機関、および2021年度までの情報なため、最新情報でもない。

要点

  • 奨学金応募は研究活動・論文執筆においても有用な能力を養えるので、積極的にやるべき
  • 新年度になってからではなく3月から情報収集・書類準備は始める
  • わからないことがあれば窓口にしっかり聞きましょう

奨学金の分類

現代においては多くの学生が大学院進学に当たって学費面の心配をする。そこで、奨学金を受給し、それによって工面を行うことを考えるだろう。主に奨学金

  • 給付:返還の義務がないもの
  • 貸与:返還の義務があるもの(事実上の借り入れ)

の2種類がある。慶応では、三田会などの寄付を受けて運用されている学内奨学金、学生支援機構など学外の団体による奨学金の2つにさらに分類される。

奨学金ガイダンスなどで重々告知されているように、貸与の奨学金は「返還の義務がある」ということを念頭に入れなければならない。従って、多くの人は給付型の奨学金の獲得を狙うだろう。一方、大学院であれば、学生支援機構奨学金は優秀な業績を収めた学生への返還免除の制度がある。そうしたものを狙って、学生支援機構奨学金を活用するのは一つの戦略であろう。

また、さまざまな観点で奨学金は分類することができるが、筆者が奨学金を探すときに意識をしていた項目は以下のようなものである。

金額・期間

金額は大小さまざまなものがある。また、給付の形式も、月額が定まっており毎月給付されるもの、年額が定まっており一回給付されるもの(数回に分割されるケースもある)、などさまざまである。期間に関しても、申請したその年度のみのものから、最短修業年限まで継続して受給できるものなどがある。筆者は応募先を検討する際は、基本的には応募年度の年額を計算し、比較検討を行っていた。

募集対象

多くの奨学金は「優秀な、経済面での支援が必要な学生」など、支援の必要性がある学生に給付する旨を公表している。一方で、「優秀な学生」のみを掲げている奨学金も存在し、その場合は純粋に申請書などに記載する内容で審査がされるものであると考えられる。

また、募集対象の学生の専門分野を限っているケースも存在する。例えば「理系」、「〜の分野で研究を行なっているもの」などである。この場合、多くの場合は多くの場合学部・研究科で分野の判断がされる。申請書に書かれる研究概要で判断する場合もある。

慶応SFC固有の問題だが、筆者は情報系の研究に従事しているので、大雑把には「理系」である。しかし、先述のように「学部・研究科」で分野の判断がされる場合、実際の研究内容に関係なく、筆者の出身である「総合政策学部」は「文系」の学部であると判断されてしまうケースも多い。また、「政策・メディア研究科」もまれに「理系」と判断されないケースも存在し、この辺りは学際学部固有の苦しみが存在する。

財団の情報

奨学金の財団は、多くの場合篤志家の方々/企業によって設立され、奨学金の運用を行なっている。そのため、その企業の業界分野に寄与する研究を行なっている学生を募集するケースも多い。また、最終的に審査を行うのは財団であること鑑みると、応募書類へ自身の活動を書く際にその業界を意識して伝わる例示などを考えるのに重要なヒントとなる。

奨学生の義務

奨学金の受給が決まると、研究などの学生生活の活動報告書、あるいは財団の方々、他の奨学生との懇親会への出席が義務付けられるケースがある。これらは受給を受けると「義務」なので、必ず満たせるように意識しなければならない。

選考フローとスケジュール

本項では、主に慶応SFCにおいて、給付型の奨学金を受給することを主眼として話を進める。SFCでは、多くの奨学金が以下のフローとなる。

  1. SFC内: 書類選考
    • ここでは事前に提出した書類に基づいた審査が行われる
  2. SFC内: 面接選考
    • SFC内の任意の専任教員と面接を行う
  3. SFC内: SFCからの推薦者決定
  4. 慶応全体: 他キャンパスからの推薦者を含めて、慶応全体としての推薦者決定
    • 学内奨学金の場合はここで内定する場合もある
  5. 奨学財団: 財団固有の選考
    • 書類のみであったり、面接が課せられたりするケースもある

それぞれの奨学金によって募集時期は異なるが、多くは3月下旬〜4月に募集の学内締め切りが集中する。奨学金によっては、公的な所得などの証明書、家族の正確な情報が必要になるケースが存在する。 また、応募にあたり自身の研究のサマリーなどの文章を求められるケースもある。その場合、応募の準備には相応の時間がかかる。

ここで注意しなければならないのは、当該年度の奨学金募集は3月締め切りのものも存在することである。そのため、「新年度始まるのでそろそろ奨学金の申請を」と思って学内の案内ページを見ると、既にいくつもの奨学金が締め切られている、数日後に締め切りが迫っている、という状況になりかねない。特に、新年度で入学する際はそれらの情報リソースをいち早く、と思って4月2日に窓口に相談に行っても、5日締め切りのものが存在するなどのケースもある。3日間で全ての書類を準備するのは、体感として困難と言わざるを得ない。

結論として、3月に入ったら奨学金のページをチェックし、自分が応募可能な奨学金を探し、リスト化、必要書類の準備を進めなければならない。また、新規に募集が始まったとしても多くの場合は学生にメールなどで通知されることはない。そのため、毎日奨学金のページをチェックし、リストを更新する作業を行うべきである。

応募に関する筆者の考え方

筆者は、博士課程まで毎年3月ごろになると奨学金の応募書類の作成作業を始めていた。この作成作業には、それ相応の時間がかかり、実際研究活動の手を緩めなければならないケースもある。一方で、奨学金の申請のためには、多くの場合「自身の研究のサマリー・貢献」「将来像」などについて記述しなければならない。また、これは論文と異なり、異分野の人が読んでも理解できる書類に仕上げなければならない。そのためには、自分の行なっている議論を再整理し、その貢献をシャープに平易な言葉で語るようにしなければならない。自身の活動の意義を平易に語り、それに出資してくれる気になるような文章を書く、その能力は研究・社会の中においても非常に重要な能力である。自分はまだ社会に出てないから知らないけど。

従って、筆者は例年新年度を迎えるにあたって、改めて自身の研究の貢献を考え直す機会と捉え、研究活動の一環としてこれらの作業は行っていた。貢献や方向性の整理を意識的に行わず、迷走ししてしまうことが研究活動ではしばしば発生する。少なくとも奨学金の申請という手続きの中で、これらを年に1回強制的に行うだけでも非常に意味のあることであると考える。

Tips

奨学金応募および選考にあたりいくつかのTipsを残す。

準備の手順

以下の手順を遅くとも3月中旬には始める。

  • 応募可能な奨学金のリスト作成
    • 5月ぐらいまでは毎日チェックを行い更新をする
  • 必要書類のリストアップ
    • 家族の所得証明を勤務先に依頼するケースもあるので締め切りに十分注意する
  • 自身の書類記述部分の文章作成
    • 主に書くこと(募集要項・必要書類から項目を整理しておく)
      • 研究・活動していること
        • その貢献
      • 将来像
        • 現在の活動と将来像はどう繋がるか
    • これらの文章は1度書いた後に、数日おくなりして見直すタイミングがあると良い
      • 文書を推敲する能力を養うトレーニングと捉えて行う

学内選考におけるノウハウ

書類の書きっぷり

  • 「わかりやすい文章」を意識する
    • 初学者にも読めるようにする
      • 「誰が読むのか」を意識する
        • 多くの場合は「教授」である
        • 専門分野が異なっても、いい加減な専門用語で煙に巻くような文章は評価されないと思っていいだろう
      • 専門用語は必要最低限にとどめ、必要な場合は適宜説明を加える
    • パラグラフライティングを意識する

面接官を知る

  • 文章の書きっぷり同様、面接官に対してわかりやすく説明する
    • SFCの中であれば、教員プロフィールなどを眺めておき、顔と専門分野を大まかに把握しておく
      • 面接官は事前に通知されないので、部屋に入った時に、顔から専門分野がわかるとベスト
        • 近年はzoomで面接が実施されるため、その場で手元で表示名を検索することも可能だろうが、その良し悪しはある
      • その人にわかるような例、喋り方、専門用語の使い方を心がける

ありそうな疑問

Q1: 両親の所得が多くて奨学金なんて受けられそうにない

所得制限なく、「優秀な学生」を対象に奨学金も存在する。絶対数は少ないが、チャレンジする価値はあると筆者は思う。 大学院生で、両親と別居、バイトで生計を立てている状況であれば、独立した生計として申請することができるので、一度窓口に相談しよう。

Q2: 学生結婚すると学費が少なくなるって聞いたけど?

これは嘘。正確には、所得を計算する際に結婚していると、配偶者の収入をある程度控除する仕組みがある。加えて独立生計である場合、自身の所得では2人で暮らすのには不十分である、という旨を記述してあげればある程度は奨学金受給の必要性が明確になり、受給できる可能性が上がるかもしれない、というのが実態である。

Q3: 書類がめんどくさい

うるさい こう書くと老害っぽいが、数年前までは全ての書類が手書きだった。今はWebフォームに入力で済むので、wordなどで十分に推敲するのは楽だ。お金のためと思って頑張ろう。

Q4: hogehogeって書類って何ですか?

窓口に聞きましょう。みなさんすごく丁寧に対応していただけます。

終わりに

本稿で述べたのは応募に関しての話であり、審査される対象はそれまでの実績や、記述内容である。そのためには、やはり研究・活動に精を出し、業績をあげた方が結果として奨学金は通りやすくなるだろう。そのための活動に集中するためには、奨学金を受ける必要がある、これはにわとりとたまごみたいな話だ。

一方、頑張ればその分のリターンはある話だし、本稿で述べたように特に文章執筆および人にその内容を伝えるということは非常に重要な能力であるとともに、有意義なトレーニングの機会である。

自分は家庭の事情もあり、給付・貸与含めて9年間で受けた奨学金の額は相当なものだ。特に大学院に入ってから純粋に自費で学費は払っていない。これは家族、指導教員、そして学事学生生活奨学金担当の方々による多大なサポートを受けて実現できたことである。ここで改めてその感謝を示しておきたい。

本稿が学費を憂う学生の何かしらのヒントになることを祈る。